小咄
昨日の夕方、散歩途中、左手に曲がろうとした時、
後方から走ってきた自転車と危うくぶつかりそうになった。
私はぎりぎりストップ、相手はそのまま真っ直ぐ走り抜けたのだが、
私の足と車輪の距離は10センチ程度だったと思う。
乗り手「キャッ」
深窓のお嬢様はかくやあらんという華奢な悲鳴を上げた。
なにこれ少女漫画的出会いフラグ立ったの?と勢い振り向いたら、
後ろ姿はハゲ小太りのおっさんやった。
瞬間、目の焦点がぼやけた。
うちのお嬢様。
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まだキャバクラがなかった時代。
実家に隣接するビル1Fにラウンジが入っていた。
水商売が現在より閉鎖的であったため、
夜な夜なお姉さんの嬌声が漏れ聞こえることはあっても、
今より夜がずっと静かな時代であった。
ある日、事件が起こった。
ラウンジに警察が押し入ったのである。
詳しい理由は知らない。
何の試練か丁度私の帰宅時、バンッと破壊的な音が響くと目の前に、
ラウンジの勝手口から一人の女性がまさに飛ぶように飛び出してきた。
色は忘れたが艶やかな光沢のロングドレスをわっしと腰までたくし上げ、
ギロリと周りを見渡すと鬼神の速さで西の方向へ走り去っていった。
裸足で。
後日流れてきた情報によると逃亡したのはラウンジのママさんで、
怪しげな仕事をしていたらしい。
店内で警察の突撃を見事なフットワークでかわし、
アスリートのジャンプ力でソファを飛び越えて裏口に消えた彼女の姿は、
この界隈で語り継がれている。
ここにも鬼神が・・・
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怖いもの知らずだったあの頃。
当時の恋人が運転する車でのドライブ中、喧嘩になった。
口論の末、私は車を止めさせ下車し、翻って対向車線を走り抜けた。
憤りのまま道沿いの町を突き抜け、
別の道路に出ると大型トラックをヒッチハイクして帰途へ。
3時間かけて走った先の周囲には駅もない閑散とした
見知らぬ土地へ消えていく私の後姿を、
彼の人は成す術もなくハンドルを握りしめて凝視していた。
最後にちらりと見たその顔は画・楳図かずお、やった。
鬼神と化したお嬢様にどつかれて入り口で立ち往生のセルジくん。
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2013.09.09 | コメント(8) | トラックバック(0) | 未分類
