ボッチくんはさびしくない後編
大ボッチが机をかたづけています。
大ボッチの体操の時間がはじまる合図です。
それまで止まり木のかげでそっと様子をうかがっていたボッチくんが、
今だと、ケージにとびつきました。
ボッチくんはかんさつで、体操はボッチくんたちの夕ご飯タイムに
おこなわれることを知っていたのです。
自分のご飯をいそいで食べて、コザクラさんたちがまだ食べている間に、
大ボッチの気を引いてお外に出るというのがボッチくんのさくせんです。
「ボッチとお話しするでちよ」
「ボッチ、コザクラさんのひみつを教えてあげるのでち」
ボッチくんはたくみにアピールします。
「ボッチ、カワイ、カワイボッチ」
得意の大ボッチ語もひろうします。
すると、とうとう大ボッチがやってきました。
「どうしたのボッチくん。今日はやけにさわがしいね」
ボッチくんはここぞと、「ボッチを出すのでちぃ」
でも大ボッチは、「はいはいボッチくん」とか、
「ご飯は食べたの?」などと言うだけです。
こんなはずではないのです。
ボッチくんはあせりました。
大ボッチが背中を向けたそのとき、ボッチくんは思わず叫びました。
「ボッチ、もうぼっちはいやなのでち」
ひつうをにじませた鳴き声に、大ボッチはゆっくりと振り向きました。
「でもボッチくん。ボッチくんはコザクラさんたちと遊ばないでしょう?」
「・・・・・・」
「それに、みんなと距離があっても楽しそうに見えたのだけど」
「・・・・・・」
「大ボッチの勘違いかな」
「・・・違うでち」
「何が違うのボッチくん」
「楽しいけど、大ボッチがコザクラさんの相手をすると、ボッチ、・・
・・ボッチはひとりぼっちの気持ちになるのでち」
ボッチくんの言葉に、大ボッチはおおきな衝撃をうけました。
みんなと一緒でも、たいていボッチくんは大ボッチの側で遊んでいるので、
ボッチくんがさびしくなっているとは大ボッチには思いもよらなかったのです。
「コザクラさんたちの動きはボッチの三倍速でち」
「大ボッチがコザクラさんといっしょの時、ボッチは置いていかれるのでち」
「ボッチ、同じ速さの大ボッチがいいのでち」
「ボッチ、ボッチと大ボッチだけの時間がほしいのでち」
いっしょうけんめい訴えるボッチくんを大ボッチはじっと見つめていました。
そして、にっこりとボッチくんにほほ笑みました。
「じゃあボッチくん。体操の時間はボッチくんと大ボッチのふたりの時間にしようか」
「楽しいのでち」
「よかったね、ボッチくん」
どうやら、ストレッチ中のゆっくりと動く大ボッチは、
ボッチくんにとってかっこうの遊び場のようです。
のばされた右腕から首元をまわって左腕まで一直線に走りぬけたり、
大ボッチが体をひねればその背中にとび乗ります。
かんさつのお話はどこへやら、
ボッチくんは大興奮で走り回っています。
案の定、足を踏み外して背中からころげ落ちるボッチくんを
大ボッチがキャッチしました。
開いた手のひらから見上げてくるボッチくんの瞳はきらきらと輝き、
大ボッチをとてもとても幸せな気持ちにします。
「ボッチ、大ボッチとふたりなのでち」
「ふたりですね、ボッチくん」
「ボッチ、うれしいのでち」
「私もですよ、ボッチくん」
おわり。
「ボッチちゃんうまくやったわね」
コザクラさんが言いました。
「うまくやったでしゅ」
コザクラくんがうなずきました。
「大ボッチはボッチちゃんに少々あまいようね」
コザクラさんが言いました。
「甘すぎでしゅ。ぼくも沢山お外に出たいでしゅ」
コザクラくんはふんがいしています。
「おちつきなさい。私に考えがあるわ」
「コザクラさん・・・」
コザクラくんはぞくりとしました。
コザクラさんのお顔には、かつて
大ボッチキラーと呼ばれた笑みが、浮かび上がっていたのでした。
2013.02.26 | コメント(12) | トラックバック(0) | 竜胆の不思議
