寄り添って
アーシュラ・K・ル=グウィン
「いまファンタジーにできること」
原題「Cheek By Jowl」
SF、ファンタジー作家であるル=グウィンのエッセイや講演を纏めた本で、
「一級のファンタジーは一級の導きを提供する」(本文抜粋)ことを
様々なファンタジー小説を例にとって案内しています。
ところで、この本は動物物語を多くとり上げており、
動物を幼稚なものと扱い、動物だから許されるとでも思ったのか、
人間社会の悪しき風習をそのまま動物たちに押し付けている小説、
人間を特別な存在にするために動物たちを利用する小説を、
ル=グウィンは辛辣に批判しています。
かの名作、ジャック・ロンドンの「白い牙」をも、
冷酷と愛が胸を刺す物語と高評価しながら、
主人公(犬)にとって人間は神だと記したロンドンのそれは
人間が自惚れすぎであり、「生物種的偏見」だと指摘している。
おそらく動物好きの本好きであれば大抵は引っ掛かるであろう
「この本はとても面白いのだけれど、ちょっともやっとする」部分を、
晒してスカッと晴らしてくれています。
また、ル=グウィンは人間のコミュニティと動物たちの世界が
隣人関係であった過去を語り、
現在の人間というひとつの種しかいない社会の中では、
ペットは「他者たち」の世界への重要なリンクだと位置付けています。
だからでしょうか、人がペットに手を伸ばす時、
その身に纏う空気がするりと変わるように感じるのは。
まるでベターハーフを求めるに似た仕種は、
彼らと寄り添って生きた世界へ帰還した証なのでしょうか。
放鳥中、竜胆を腕に乗せたまま30分程うたた寝をしてしまい、
はっと起きてみれば、竜胆が寝る前と同じ位置にスタンバイしていました。
小声でピヨと、起きた?とでも言うように鳴く竜胆に、
寄り添ってくれてたのねと、気持ちがほっこりしました。
時折、あやしい寄り添い方をする竜胆ですが。
私のベターハーフを自負するピピンさんはエロリンにも余裕です。
お眠むのピピンさんと、足掛けを頑張るエロリン。
ル=グウィンは手厳しい了見の持ち主ですが、
飛び抜けたユーモアで笑わせてもくれます。
この本では小説家らしく、原作を踏まえない映画(アニメ)化を
ユーモラスに嘆いていました。
はなはだしく誤って伝えられ、センチメンタルなものにされ、
質を劣化させられているものは、たぶん『バンビ』だろう。
『バンビ』というタイトルを読んで、
眼球の肥大したキュートなスカンクたちが目に浮かぶ人がいたら、
ディズニー病にかかっている。
2012.02.26 | コメント(6) | トラックバック(0) | ピピンと本
