残響
ゴリゴリ。
一瞬あの音が聞こえた。
私はもはや条件反射で耳をそばだてるが、
漆喰の壁に囲まれた室内はシンと静まり返っている。
すでに残響ではあったが…たしかに…
いや前回あれほど念入りに封じたはずだ。
となれば気のせいか。
それに、
二階の部屋には思わぬ音が外から聴こえる事もある。
そう自分を納得させているとまた、
ゴリゴリ
今度ははっきりと聞こえる。
壁からだ。
ゴリゴリ
ゴリゴリ
ゴリゴリ
像の牙が密猟者に剥ぎ取られるとき、
骸骨が己の肉のないほほを掻くとき、
妻が壁の中でぶつかるときの音だ。
嫌な音だ。
ききたくない、ああ、ききたくない。
たのむからやめてくれ。
私を怒らせる意味はすでにないはずだ。
仮にそうならまた閉じ込めればいいことだ。
…そしてまた出てくるのか?
ゴリゴリ
ゴリゴリ
そこに視線を向けると、
床には小さな漆喰の塊が落ちていた。
思わず壁の中を想像し腕に鳥肌が立つ。
どうやら作業をする時のようだ。
私は重い腰を上げた。
ゴリゴリコリコリ
あれが私の動きを察したようだ。
音に焦りが加わる。
私は壁に目を凝らした。
まだまだ厚いそれは、遠目で見れば
そこに--があるとは誰も思うまい。
この記述を…そう、私はこの一連の出来事を
私のとった過ちをあえて残そうと思っている。
これを読んで私を不知案内と笑うがいい。
何人かはこれが私の切なる忠告だと解るはずだ。
あれを、彼らを、…他の人はどう呼んでいるのだろうか。
至宝の恋人?ダーリン?我が天使?
私はピピン、セルジ、と呼んでいる。
彼らに訓戒を与える時は筋を通さねばならぬ。
さもなくばこの小さなドラゴンの鋭い嘴の犠牲になることは必定。
加減を知っているが、あえて加減しないRedDragon-ピピン。
私は筋を違えてしまった。
この穴は数週間前に発見したものだ。
穴はムルさんのケージから視線を上げたすぐの壁にあった。
今迄何故気が付かなかったのだろう。
発見直後、ケージを足場にし、まだ意気揚々と穴を掘り続けているかれらに
壁を示し「ダメ!」と言う。
数度繰り返すと、ピピンさんは了承し、
セルジくんは隙を狙っているがダメな事を解ったようだ。
数日前、別の穴を発見した。
前回の穴の真向かいの壁にあった。
この時、私は致命的なミスをおかしたのだ。
今回は足場が不安定なため、
放って置けばかれらも早々に諦めてくれるだろう、と。
それにピピンさんは見ているだけ。
壁を齧ってはいけないと理解しているのですね。
さすがですよ、ピピンさん。
と思ってその場で何も言わなかったのが大間違い。
「怒らなかったでしゅね」
「ボーリング(boring)許可はおりたようね」
数日後の今、ピピンさんが参戦しよった…
しかも区域を広げようとしている。
セルジくんも不利な体勢で頑張っている。
今更の「ダメ」はかれらにとって正義ではない。
しかし私はやらねばならない。
壁の破壊と、万が一の誤飲を防ぐ義務があるのだ。
ピピンさんなら解ってくれる。
セルジくんも納得してくれるだろう。
確信はある。
そして報復、その後の八つ当たりにも確信がある。
黙ってかれらを見る。
かれらもじっと私を見上げている。
ゴリゴリ
ゴリゴリ
ゴリゴリ
聞こえるはずのない音が
耳の奥から響いてきた。
ブログランキング参加中ポチっと


心理学、比較認知神経科学の研究者が、脳の仕組み、記憶能力、鳥は芸術が解るのか、人間の言語は?(ここで有名なアレックスが登場します)、鳥の自己は?の疑問を紐解いていきます。専門分野を解り易く書いてくれていますが、文に面白みがないので読むのに少しまごつきました。鳥の能力の解明という、鳥好きとしては大変興味深い内容でしたが”実験”には嫌悪感が湧く種類も含まれており、複雑な気持ちになる本でした。
2010.07.09 | コメント(12) | トラックバック(0) | ピピンと非日常
