愛鳥週間なのに
5月ではすでに珍しくなくなった夏日の午前、
私はとある用事を済ませた帰宅の途にあった。
紫外線アレルギーゆえに、
日中の外出はいつもなら最短距離を選択するのだが、
肌の露出を極限にまで抑えた
全身これ季節にそぐわぬ不審者スタイルという安心感からか、
厳しい日差しであるにもかかわらず、私はふと、
遠回りをしたくなった。
日傘の向こうに地元の神社が見える。
樹齢1000年の楠木が名所の神社で、参道にも堂々たる楠木が立ち並んでいる。
拝殿は小ぶりですが、
大楠は手前の太鼓台(高さ約5.5m)が小さく見える程の大木です。
(写真後方左半分が大楠です)
緑の天蓋に日傘をたたんで参道を歩いていると、地面に、
大きくて真っ黒な蝶が翅を広げてうずくまっていた。
たぶん、ナガサキアゲハの女子。
4枚ある翅のうち右の後翅(こうし)が無残に消えていたので、
これはもう残念だと、一度は通り過ぎたのだけれど、
無視するにはあまりに瑞々しい生命だった。
そっと日傘の先端を蝶の正面に置くと、
おやまあ、細い肢でひしひしとよじ登ってきた。
「それでは蝶さん、行きましょうか」
蝶さんを乗せた日傘を腰の位置程で水平に保つと、
私は神社を出、少し離れた目当ての場所へと向かった。
蝶さんを地面よりもう少しましな場所へ移動させるためだ。
落ち着き先は木陰の花がベストですねぇ、などと蝶さんに話しかけると、
漆黒の複眼が確かにこちらを見上げている。
風の抵抗を避けるためか翅は閉じられており、
蝶さんの横顔をしっかりと見ることができるのだ。
ビロードの毛がお顔から胸元までを覆い、ふわりふわりと揺れている。
くるくると丸まった口吻が存外に可愛い。
時折、バランスを取っているのかゆっくりと翅を広げそして閉じる。
その姿はまるでやわらかな黒曜石だ。
目的地は放置された車や小屋が秘密の花園と化した所。
青紫色のツツジに似た花木に日傘を置くと、
蝶さんがのそのそと花へ移って行った。
なんだか不思議な旅を経験した。
愛鳥週間(5月10~16日)なのに、
野鳥の皆さんの蛋白源を奪ってしまいました。
あ、ピピンさんウミウシを齧ってはダメですよ。
あ、リンちゃんマウスに悪戯はダメですよ。
「愛鳥週間」、我が家では愛を試される週間です。
2013.05.11 | コメント(12) | トラックバック(0) | いきものと出会う
